第25章 スイッチはどこだ(木葉秋紀)
あーーーー神経すり減る。
残念ながら、今みたいな流れは珍しくはない。木葉は毎度毎度毎度の如く、こうやって周りが発破をかけてやらないと素直になまえに寄り添う素振りを一切見せない。お前らって、ちゃんと恋人らしいことしてるんだよな?と確認したくなる程に、だ。
もちろん、四六時中に目の前で愛を囁きあってほしい訳じゃない。それは流石に殴ってもらう。猿杙に。(こいつの悪事は大概が多目に見られるから楽なんだ)
けど、今の状態の、 ドライに彼女を扱う木葉もどうかと思うわけでして。
「なぁ、赤葦」薄く伸びる足の長い2つの影を目で追いながら、 隣の後輩に話しかける。なんで木葉たちの後ろを歩いているかって駅がこっちの方向だからだ。別にストーキングしてるわけじゃない。
視線を上げる。前を歩く、なまえの背負う妙に緩い紐のスクールバック、の底に張られた《鹿に注意♡》のステッカー。頭上高くの、薄く広がるうろこ雲。16時半の傾いた太陽と、隣からは「なんですか」といつも通りの無感情な声。
いつも通り、というのは安心感があるもので、俺は特にためらいもなく、率直な疑問を吐露することができた。
「木葉の奴の、どこがいいんだ……?」
それは嫉妬とかそういう類いではなくて、もっと根本に近い素朴なところから生まれた疑問だったのだけど、
「俺に聞かないでくださいよ」
返ってくるのはこれである。そりゃそうだな、と軽く応じて、俺は独りで首を傾げた。
木葉は虚仮にしているが、傍目から見て、なまえは木葉の恋人の枠に収まるにはもったいない。(確かにやや電波だけど、)素直でノリも良くて話しかけやすい。もちろん特別不細工でも肥満体型でもないし、むしろ逆だと言ってあげたい。
では一体なぜ、なまえは掃いて捨てるほどいる男の中で、木葉みたいな面倒な男を恋人に選びとってしまったのか。チームメイトの俺から見ても、あいつがパートナーじゃ、余りにも土台が心もとない。果たして幸せにしてくれるかどうか、良く見積もってフィフティー・フィフティー、だと思う。
「ほんと、わけわかんねぇ奴ら」
力なく笑って、勘弁してほしいよなぁ?と隣を歩く赤葦に目配せをした。しかし視線が噛み合わず、ありゃ?と前につんのめりそうになってしまった。