第25章 スイッチはどこだ(木葉秋紀)
世の中にはケンカップルという俗語もあるけど、この軽口のエレクトリカルパレードはあまりにも酷い。端的に言うなら素直じゃない奴。あー、ほら、なまえがいじけてしゃがみこんだぞ。誰かー、誰か構ってやってくれー。
と言っても誰も出てこないので、俺直々にフォローを入れようと口を開きかけたところ、それまで黙っていた赤葦が遮るようにひょいと間に入ってきた。
「俺は、なまえさんは華奢な方だと思いますよ」
柔らかみを帯びた表情でそう言うと、赤葦は、地面に指で円を描いているなまえに覆い被さるように影を落とした。そして一言ささめく。
「木葉さんが行かないのなら、俺がその食べ放題、ご一緒してもいいですか」
「えっ、ほんと!?行ってくれるの?」
「ええ。たんと、好きなだけ食べてください」そしてチラリと木葉に目配せ。
ナイスだぞー、赤葦。
というわけで俺は賞讃の声をかける代わりの控えめなサムズアップ。さすが木兎の世話係。空気は読めるし仕事も早い。その上先輩を煽るのもうまいんだから。
「ちょ、待て待て待て待て」と、予想通り木葉が踵を返し、なまえと赤葦の間へ割り込んでくる。そうだぞー。ちゃんと正直になれよー。ほんとは誘ってもらえて嬉しかったくせに。
なのにその口から出た言葉ときたら、「赤葦、この女あれだぞ。鬼の如く食うぞ!?」
アホかよこいつ。
「構いませんよ?」と赤葦は立ち上がり、穏やかに、誠実に、深い黒色の瞳を木葉に向けた。
「俺は、遠慮せずに沢山食べる女性の方が好みです」
うんうん。赤葦は本当に優しいんだよな。
「それに、欲望のままに貪る女性の姿ってそそられますしね」
ちょっと性癖がおかしいけどな。
後輩の生粋の変態加減にたじろいで、木葉は素早く「おい、なまえ」と間に挟まれている恋人の説得へと切り替えた。「赤葦にはぜってぇ、ついて行くなよ」
「はぁ?善処します」
「くっそ腹立つ!」
木葉のバカめ、こっちの方が不落だろうに。ま、しょーがないわな。ここにきてようやく俺の参入というわけです。そこ、実はでしゃばりたかった?とか言わないの。否定はしない!