第25章 スイッチはどこだ(木葉秋紀)
「つか、女子がチキン食べホて何アピールよ。それ以上肥えてどうすんのお前。何を目指すの?」
「夢は世界で一番キュートなチキンゲーマー!シャコ生バイオ絶叫実況!ちなみにあたしのIBM指数聞く?」
「数値じゃなくて見た目な。デブ」
「違う!」
「ばーか、」
お分かりいただけただろうか。ここまでの不毛な会話は頭から終わりまでまるっとなまえと木葉のやり取りであって、念押しで言うとこの2人は天下の高校3年生であり、決して中2病女子と小学生男子のコンビではなくて、
「なまえさん、IBMじゃなくてBMIです」
うん。赤葦はちょっと黙ろうな。
「こーのは少年!」となまえはスクールバックをリュックのように背負い直して、ピンと立てた人差し指を木葉の腹に軽く突き立てた。
「キミは必ずや後悔するぞ。いたいけな彼女からの、健気なデートのお誘いを断るなんてな!」
「いたいけな彼女?」
見下ろす木葉は、カーディガンの裾を伸ばして、はて、と色付いた街路樹へと視線をずらした。「痛い系の間違いだろ?」
「やや、それはあながち」
「受容すんなよ」
そう。驚かないで聞いてほしい。こいつらは世に言うところのカップル、リア充、相思相愛(死んでほしい) 正真正銘の、告白というイベントを乗り越えた恋人同士。の、はず。だと思う。多分。認めたくない。
「っつーわけで、お前がフライドチキンなんてギャグだわな。ギャグ」
早く話を切り上げたいとでも言うように、木葉はバスガイドを真似て右手の平を上へと向けて、優雅に揃えた指先でどこか遠くを指し示す。「肉が肉食う捕食活動。俺は行かない」
「ひっどーいよ、秋紀。今夜チュイッターの裏垢に悪口書いちゃる」
「どーぞ、メンヘラごっこはご勝手に」
あーあーあー、また始まったよ。
むくれるなまえを置き去りにして、澄ました顔で歩き出す木葉に俺は頭痛を覚える。
これが最近の気がかりなこと。