第25章 スイッチはどこだ(木葉秋紀)
誰でもいいから、誰かに聞いていただきたい。俺は梟谷学園高校のバレー部リベロ小見春樹でっす。こんにちは。
季節は秋。薄い膜が張ったような澄んだ空気とカロチノイドの色づく紅葉。閉じたドアの隙間から、しめやかに甘い秋花の香り漂う……そうです、夏は死にました。
ホームルームでは明日から衣替えですよブレザー登校ですよーとしつこく言われるだけあって、9月晦日の放課後にYシャツ姿で家路へと向かう頃には肌寒い風が吹き抜けます。この冷えた心と身体をあっためてくれる女子か肉まんか肉付きの良い女の子が欲しいもんです。まぁYシャツは癖で腕まくっちゃうんスけどね。
っていう、時候の話は今回一切関係なくて、最近の俺の気がかりなことを誰かに聞いてほしいんです。っつーか誰も聞いてくれなくていいや。発表します。
気がかりっつってもそんな深刻な話じゃないんですけどね。ほら、丁度いま、俺の隣で1コ下の後輩セッターと話してる、ベージュのカーディガンを羽織った女々しい野郎にまつわることで……「木葉二等兵!全員直ちに隊列に戻れー!!」……それからこの、どこからともなく湧いて出る(頭も湧いてるかもしれない)女子もセットなんスけど。
「全員とか言われても木葉二等兵は1人しかいないです隊長ー」
「ええい、じゃあ1人だけ聞け!これを見ろ!」
「まずお前が落ち着けよ」
立ち止まった木葉の鼻先に、ドン☆と効果音つきでリーフレットが突きつけられた。俺と赤葦が首を伸ばして覗き込もうとしたところ、声を大にした彼女が一息にそれを読み上げる。
「ケンニャッキー フライドチキン食べ放題 60分 1,350円!!」 うーん、お高い! 「駅前から徒歩約3分!」 されどご近所!
「秋紀曹長!」
「俺はパス」
「ま、だ、何も、言ってないよ!!お願い秋紀少尉!」
「中尉」
「大尉!」
「大佐」
「准将!」
「大将」
「ゲンスイ様ァ!!!」
ーーー ピャーっとお手上げ万歳のポーズを決めて、命乞いする兵士の如く騒いでいるのはみょうじなまえ。
「今日は部活休みなんでしょ~~~!!?」
「今日の俺は帰って寝んの!」
ーーー片や、見事元帥にまで昇格した木葉秋紀。