第3章 おちたみどりはどんなおと(黒尾鉄朗)
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「あぁん!ピクニックサイコー!!!」
カシュ、と小気味いい音をたてて缶ビールが開くのを、黒尾は恨めしい気持ちで眺めていた。
青空、公園、初夏の風。
あれからすっかり意気投合した黒尾となまえは、周りの家族連れを真似て木陰で青いレジャーシートを広げ、時折飛んでくる虫の襲来に2人でぎゃーぎゃー騒ぎながらサンドイッチを頬張った。
だけど唯一、アルコールの素晴らしさだけは共有できない。
「ぷはー!生き返る!!!」
シートの上でくつろぎながら、豪快に笑うなまえに、マジか、と黒尾は引き気味だった。そんな2人の目の前を、小さな子どもが駆け抜けていく。
区立公園のこの場所は、とにかく自然が多くて規模がデカい。テニスコートや野球場、バーベキュー広場も併設していて、日曜日の今日は特に混み合っていた。入り口近くで、大道芸人がバルーンアートも披露している。
「なまえってさぁ、」
風船で作られたプードルにはしゃぐ子供たち。それを遠目に眺めながら黒尾はビスケットを1枚噛じった。「酒が飲めればどこでもサイコーって言ってそうだな」
干物女ってヤツ?
そう言って馬鹿にしようと思っていたのに、ビールを流し込むなまえを見て黒尾は黙った。
6月の葉の隙間から漏れる木漏れ日。揺れる光のマダラ模様を肌に浮かべて、ゴクゴクと缶ビールを飲む彼女。
その上下する白い喉に、なぜか性的興奮を覚えた。マジか、と思って、なんとなく、本当になんとなく胡座をかいていた体勢を体育座りに直しておいた。