第21章 チゲ鍋リスカパーリナイ(菅原孝支)
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「ちょいとお待ちよ車屋さん」
「林檎ちゃん?」
「むしろひばりちゃーん……じゃなくて孝支,それはさすがに辛味入れ過ぎ」
「え,そう?」
なかなか火の通らない白菜に痺れを切らしたのかなんなのか,赤い何かを大量に注ぎ込んでいく孝支がきょとんと固まったので,
「そうだよ!」
となまえは彼を指差した。「年々摂取量がうなぎ登りよ!あんたそんなんで大丈夫?」
「平気だべ」
「あたしアンタのお尻事情まで面倒見る気ないからね」
「うーん,迷うけど俺も見てほしくないな!」
「迷わないでください」
「でも辛い食べ物ってさぁ,毎日食べてると慣れていくよな」
「まあね」
「もっともっと,ってどんどん辛くしたくなるよな」
「舌が麻痺していくんかな?」
「それって,恋愛も同じだと思いませんか?」
「うーん,話の飛躍」
「俺さぁ,」
と,孝支は頬杖をついて思いを馳せる。「中学ん時は,お前に『おはよう』って挨拶されるだけで超嬉しかったのに」
「ちょっとちょっとお兄さん,聞き捨てならないんですけれど。今は嬉しくないんですか?」
「今は毎朝スタンプ1個送られてくる」
「時代っスね」
「しかもこうやって一緒に飯食えてるし?」
「親が夜勤の時だけね」
「一緒に皿洗いとか出来ちゃうし?」
「良かったねぇ」
「辛さにも幸せにも鈍感になっていくんです,ってな!」
「初めて手を繋いだ時は死ぬほどときめいたはずなのにねぇ」
今はほら,とテーブルの下で足を絡ませる。
「私とこうやってお喋りできるだけで世界一幸せでしょうに」
「そーだよな。そんでその言葉そっくり全部返しとくな」
「もっともっと,ってわがまま言っちゃだめなんですね」
「人間慣れていくからな。そして俺はなまえが好きです」
「うん………うん?」
「なまえと一緒に鍋が食えて幸せです」
「………」
「あ,照れてる。珍しー,顔真っ赤」
「鍋の熱気です。蓋しときます」
「か〜わいー!!!」
「やめてください。近所迷惑」
「なまえの身体なら俺は隅々まで好きです」
「下ネタもやめてください」
「下ネタではねーべ」