第21章 チゲ鍋リスカパーリナイ(菅原孝支)
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「俺はね,幸せな時よりも辛い時に一緒にいれるかどうかの方が大事だと思ってる」
「よくわかってらっしゃる」
適当に頷いて同意をすれば,
「牧師さんも言うだろー?」
と目を閉じて唱え出す。「今この時より,幸いなるときも不幸なときも,」
「富めるときも貧しきときも?」
「病めるときも健やかなるときも,」
「死が2人を分かつまで,」
「愛し,慈しむことを誓い……あっ」
「鍋が吹きこぼれそうだわ」
「台無しだ」
邪魔すんなよー,と孝支がカセットコンロの火を弱めながら肩を落とすので,なまえもお玉を持って,
「まぁ高校生の口から出る結婚って単語ほど無責任な言葉はないよね」
と笑ってはぐらかしておく。
「それを言ったら形無しですね」
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「ではでは!」
良い香りと湯気の立つ小皿を前に,
「お楽しみで御座います!」
となまえが両手を胸の前へと掲げた。「それでは皆様,お手を拝借———」
「待て待て,それはお開きの時!」
「ちちよあなたのいつくしみにかんしゃしてこのしょくじをいただきますここに」
「はーい,それはお前が通わされてたカトリックの幼稚園の食事の前のお祈りの言葉で俺は一般家庭の子です」
「失礼しました」
ぴっ,と背筋を伸ばして,「では,」と2人で両手を合わせる。豚肉さん白菜さんもやしさんお豆腐さんお米さんその他割愛。
この命に感謝申し上げて,
「「 いただきます 」」
おしまい
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「おててのしわとしわを合わせて〜 しあわせ〜」
というCMがあるらしいですね(作者は見たことないです)