第20章 メビウスの輪舞曲(赤葦京治)
A’:紳士な男子だろうがなんだろうが,半年も月日が経てばそんな出来事,俺はすっかり忘れてしまう
「い゛っ……!」
その上名前も知らないその女子から変態呼ばわりされたあげくに,ハンガーを額にお見舞いされた。盛大な音と共に脳天に衝撃が走る。見事なまでの命中であり,非常に酷い話だと思う。目に当たらなくて本当に良かった。
「だだだ,大丈夫ですか!?」
額を抑えてうずくまると,頭上から声が飛んできた。大丈夫ですかってアンタが投げたんだろ。
足下にはハンガーと自分のスマホが落ちていた。痛い。正直言ってすごくいたい。トンデモナクイタイ。木兎さんのサーブ並に痛いけど,圧力のかかる面積が違いすぎる。
うぅ,と情けない声で呻いていると,バタバタと門扉から加害者が飛び出してきた。近くに駆け寄ってきたものの,あっ,あっと手を大きく動かすだけで狼狽えている。
「えっ,あっ,どうしよ!保冷剤!?タオル!?きゅ救急車!?血は!?出てる!?」
「ちょっと,黙って」
顔をしかめた。両手を額にあてたまま,目を閉じて集中する。脈打つように痛みが走った。手の平を見る。出血はない。
「ごめんなさい!痛かった!?」
当たり前だろ。彼女を睨むと,ひっ,と怯えた声があがった。
「ででですよね!?ごめんなさいわたし中学まで陸上で投てきしてた!から!」
「は」
投てきって,槍とかハンマーとか投げるアレか。
「槍投げてたの?その身体の薄さで?」
「ジャベリックスローですぅ!」
両手を振って抗議をする彼女に頭がパンクしそうになった。体格的に明らか向いていないだろどこの中学だよコーチの目は節穴か。誰だってこんな近距離でぶん投げられたら怪我するに決まってる。あーもうすげぇ痛ぇ。
「脳しんとうとか!起こしてないですか!?」
脳しんとう?
聞き覚えのある単語に急に頭が冷やされた。顔を上げて彼女を見る。
「赤葦京治」
「……はい?アカアシ?」
「俺の名前。梟谷学園高校2年6組。誕生日は12月5日」
「え,あ,みょうじなまえです。2年1組で,誕生日は…….」
「違う」
自己紹介じゃない。
息を深く吸って,ゆっくり,立ち上がった。「俺の受け答えは正常?」