第20章 メビウスの輪舞曲(赤葦京治)
私は真っ直ぐ歩いた。同じ屋根の下に入り傘を閉じ,あのう,と声をかけた。「すみません」
その男子は,パッとスマホから顔をあげて私を見た。
「何?」
う,と声が出そうになった。姿勢を正したその人は,思った以上に背が高かったのだ。少し癖のある髪の毛と無表情。上から見下ろされると,こ,怖い……!でもなんかこの人あれだ,肌が綺麗だ!
「あの,道を聞きたいんですけど,」
手に持った傘をぎゅっと握った。「ここら辺に,”くくの庵”ってお店,ありませんか?」
「ククノアン?」
きゅ,と彼の綺麗な眉間にシワがよる。「聞いたこと無い。ごめん」
「あ,」
同じ世代の子じゃなくて,年配の人に聞いた方がよかったのかもしれない。と思った。「和菓子屋なんです」
「和菓子屋」
ふぅん,と低い声で呟いた後,その人は興味無さそうにスマホへと視線を戻した。
「…………」
「…………」
あ,会話終了?
なんだなんだ。見た目だけじゃなくて性格まで冷たい人だな。
むっとしたけれど,でも同じ制服だけに,なんとなく離れがたかった。イケメンだし。
「私ね,うぐいす餅を買いたいんです。なんか,冬の和菓子らしくって」
その人はスマホの画面を見たまま,「へぇ」と気の抜けた返事をした。
「私のひいおばあちゃんがね,今年で85なんだけど,どーしても”くくの庵”ってとこのうぐいす餅が食べたいらしくて……他のお店のでもバレないかな?そもそも,この駅の近くにそんなお店があるのか謎だし,おばあちゃん,お餅なんて食べて大丈夫かもわかんないんだ。喉に詰まらせたら大変だし。あはは」
「…………」
「…………あー」
興味なしですか。