第2章 相利共生(澤村大地)
潔子がモテる理由は数あれど、他人を惹きつける一番の理由はその”自然さ”ではないかと私は考えている。
彼女は生まれつき容姿が整っている。だけどそれだけじゃ、あそこまで完璧にはならないだろう。彼女の見た目は、他の女子と同じように、見えない努力で保たれているのだ。
肌のお手入れ、健康的な食事と睡眠、適度な運動。きちんと自分の状態を把握して、正しいケアをしているからこそ、彼女はあそこまで作られた感のない自然な美貌を手にしているのだ。それを知ってる私は、彼女に尊敬の念を抱いている。だって私は、努力の方向性が定まらず、色んなモノに手を出しては挫折するのを繰り返しているのだから。
「そういえばさぁ」
思い出したかのように大地が口を開いた。「またバスケ部のやつに聞かれたよ。清水と月島は付き合ってんの?って」
「へぇ、そうなんだ。今度は月島なんだねぇ」
可哀想に、と私は嘆いた。清水潔子は美人でモテる。モテるが故に、あらぬ噂を立てられる。菅原孝支、縁下力、影山飛雄に月島蛍。あの東峰旭でさえ、被害者のうちの1人である。
「懲りないよなぁ。女子のやつらも」
ぼんやりとパンをかじる大地を横目に、そうだよねぇ、と私も同意する。
美人は大変なのである。絡む男は後を絶たない。変な噂はすぐに広まる。特に面倒くさいのは女子のやっかみだ。美人が嫌いな女は多い。モテる女を見る度に、性格が悪いのではと勘ぐり始める。そしてその邪推こそが、清水潔子をとりまく噂の元凶なのである。そこらへんの同性間のひがみの中を、人知れず暗躍して解決するのは私の仕事だ。
「なまえはさ、清水に嫉妬とかしないわけ?」
「嫉妬?するわけないじゃん。むしろちょっと同情してる」
「そうなのか。まぁ、そうだよな。あ、その唐揚げ」
ん、と大地が口を開ける。そこにおかずを放り込んでやる。もぐもぐもぐと咀嚼して、うん、おいしいな。と大地が笑った。
「カレー粉?」
「正解。味付けの時に一緒に混ぜるんだよ」
「へぇ」
「今度作ってあげようか?大地の分のお弁当」
「ほんとか?正直すごく嬉しいんだけど」
「期待してて待っててよ。あ、私もひと口」
口を開けると、焼きそばパンが突っ込まれる。よく味わってから飲み込んで、「悪口を言いたがる女子は確かに多いよ」とさっきの潔子の話題に戻した。
