第2章 相利共生(澤村大地)
「女子の気持ちは、俺にはわかんないからなぁ」
「自分より可愛い子に対して、見下す態度をとる子が結構いるんだよね。これが」
「見下すのかぁ。そういうことをするやつらは、きっと清水のことを恐れてるんだな」
「ほう、恐れているとは?」
「他人を蔑視する奴は、自分に自信がない奴だろ?」
当たり前のようにそう言って、大地はパンを頬張った。私はそんな彼を、びっくりしてまじまじと見つめた。自分に自信がない奴か。成程。言われてみれば一理ある。こんな風に、時々はっとすることを言ってくれるから、澤村大地のことは大好きだ。
「あっ、でももしあれだぞ?なまえがそういう、嫉妬とかして、もやもやしてるんだったら、俺でよければ相談乗るから」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
「あと、悪口とか言われたらすぐに俺に報告しろよな?」
「大丈夫だよ。ゲスい本性がないか粗探しをされるのは、可愛い女の子だけだから」
あはは、と私は笑った。まあ、そのゲスいのも興奮する、なんてトチ狂ったことを言い出す男も存在するけど。ちなみに、清水潔子の本性がどうなのかということについては、本人の尊厳のために言わないでおこう。
「私に限って、妬まれるとかそれはないから」
「いや、まあ、そうかもしれないけどさ。でも可愛いの基準は人それぞれだから」
「うん?」
「だから、モテなくても嫉妬されたりしなくてもさ、」
困ったように頬を掻いた大地が、「俺はお前のことちゃんと可愛いと思ってるから」と言い出したので私は噴き出してしまった。
「ありがとう。私も大地のこと、ちゃんと格好いいって思ってるよ。大地は潔子と噂になったこと、今まで一度もないけどね」
「お、おう。アリガトウ」
「照れるなよー」
赤くなった恋人を肘でつつきながら、自分も顔が熱くなるのがわかった。こんなに堂々とイチャついてるのに、私達が教室の誰からも注目されないのは、清水潔子なんていう容姿に優れた人間が人目を引いてくれているからだ。平凡が一番。両想いになった異性と、2人きりでご飯を食べられるだけで私は幸せなのである。
おしまい