第17章 Soliloquy(菅原孝支)
2年間、自分のハートがバラバラに千切れる度に、唇を噛んで耐えることしかできなかったんだ。そうやって足下に散らばった恋心の破片をメソメソしながら掻き集めてさ、大事に大事に抱えて家に持って帰って、夜、布団の中で不格好な形に修復するしかできなかったんだ。何度壊れても、もう止めたいと思っても。
なんて惨めなんだろうと思ってた。
なんで俺じゃないんだろうって思ってた。
世界で一番、なまえのことを想っているのは俺なのに。成績だって友達の数だって俺の方がアイツより上なのに。それに、俺は、アイツみたいに、恋人を自慢のためのツールにするなんてこと絶対にしない。笑いのために他人を貶すなんて死んでもしない。むしろアイツが不慮の事故で死ねばいいのに、なんてことまで考えた。アイツがこの世からいなくなったら、なまえはきっと悲しむ。泣いてしまう。でも彼女が打ちひしがれるところを想像しても、ちっとも心が痛まなかった。
だからだろうか。
他校の女子と手を繋いでゲーセンに入って行くアイツを街で見かけた時、内心、”勝った”と思った。
相手の女子が着ていた制服は青葉城西高校のものだったから、尚更”ラッキー”と思ってしまった。あれよあれよと言う間に二股の物的証拠が出揃って(誰に頭を下げて何をしてもらったかはここでは秘密だ)あっという間になまえとアイツは破局した。ついでに、彼女の俺に対する信頼も勝ち取った。
それが最近―――だいたい、2ヶ月くらい前のこと。
その後、傷心したなまえの「よき理解者」ポジションを確立した俺は、気分転換に、なんて体の良い口実を組み立ててデートに誘い続けた。数えて今日が3回目。3回目のデートといえば、俗に言う裁判の日だ。告白すべき日。判決の日。勝負の日。
「綺麗な音だね」
なまえがふいに呟いた。アイスコーヒーをストローで掻き混ぜている。
何が?と口を開きかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。ここにきて無風流な男だと思われたくない。
この席に座ったときから、店内には小さくピアノのBGMが流れている。けれどこれは綺麗というより、緩急のついた陽気な曲だ。答えにする代わりに、彼女の視線の先―――ミルクが混ざって甘い茶色へと変わったグラスを見つめた。