第15章 そよめきなりしひたむきなり(木葉秋紀)
「な、何しに来たんだよお前」
「部の連絡事項を伝えにきました」
「んなのLINEで連絡しろや」
木葉の声にはささやかな羞恥と明らかな不服の色が混ざっていた。しかし赤葦は歯牙にも掛けず、「長文に既読だけつけて結局読まない人には、直接言いにいった方が確実ですから」とさらりとしている。
それに、こういう連絡は少しでも早く伝えた方がいいと思いまして、と、一呼吸おいた後、彼は伝言を簡潔に述べた。「今回のテスト、1教科でも赤点とったら、補習で遠征試合参加できないらしいです」
「え、マジ?」驚いた様子で木葉が尋ねる。
「マジです」
「英語も?」
「英語もです」
「それ今になって言う?」
「しょうがないじゃないですか。俺だってさっき知ったんですから」
面倒臭そうな様子で、赤葦は尚も口を開いた。「あと、明日の朝練はさっきの連携をもっかい確認します。マネの2人が撮ってくださった動画データ、後で共有しとくんで見といてください。それから放課後練も勿論あるのでく れ ぐ れ も遅刻しないようにしてくださいね。あとは、」
そこで一度言葉を切り、視線を下げる。「夏休み中、猿杙さんの誕生日があるのでそろそろプレゼントを何にするか話し合いたいなと思ってます。うっすらでいいので考えておいてほしいです。それから、遠征試合の日程についてなんですけれどーーー」
「ちょちょ、赤葦、その話ってまだ続くのか?」
木葉が声で遮った。彼の目が一瞬なまえの方に向けられたのを、赤葦は見逃さなかった。「続きます」と彼は言った。
「あのさぁ、」
「それが嫌なら」
非難の言葉が向けられるであろうその前に、赤葦は抑揚のない声と表情で牽制をした。「残りは文字で送ります。最後まで目を通すならの話ですけど」
「頼むよ。ちゃんと読むから」
「ちゃんとですよ」