第3章 これしかありませんよねわかります。
急に心細くなる。
先ほどまでは由良といたせいか何でもできる気がすると謎の自信がわいてきていたのに別れてからまだ少ししか経っていないのにやる気もなにも失われた感じがした。
しかも和服には合わないキャリーバッグをガタガタと転がし、電波もくるはずがない携帯を握りしめ、とても心細かった。
「…由良さんについていけばよかったかも」
実は別れる間際、ついてきてもいいのよと言われたのだが、これ以上迷惑はかけられないと断ってきたのだ。
だが決めてしまった以上もう後戻りはできない。
「…うわっ騒がしい…」
ずっと向こうで土煙が舞い上がり男たちの声が響いている。戦場は近いということだ。
土煙だけではない。そこに飛び交っているのは人。そしてあの赤いのは…
「…え?赤い?」
間違いなく炎だ。
燃えるような赤い渦の中に足軽達はぐるぐると巻き込まれていっているのが遠目にでもよくわかる。
ごく一般的な常識から考えればあのような現象はこの時代にありえないはず、いや、の時代でも科学者でも立ち会わなければ危険だしあんなことはやらないだろう。
なのにまるでその現象が当たり前だというように堂々とそこに炎の渦が立っているのだ。
「嘘、やっぱここ…バサラの世界…!!」
途端に気持ちが晴れたような気がした。きっとあそこで炎の渦を巻きあげながら戦っているのは真田幸村のハズ。ならば近くに武田信玄や猿飛佐助がいるんだ。そう考えれば足取りも軽かった。
危険だと頭で理解しながらその戦場を近くで見ようと着物を膝までめくりあげキャリーバッグを勢いよく転がしながらそこへ近づいていくであった。