第3章 これしかありませんよねわかります。
「おおおおっ!!!」
女らしい歓声などあげられるほどはおしとやかではなかった。
キャリーバッグを倒してその上に乗り、横にある木に手を添えてつま先立ちをする。盛り上がった丘の上からその戦況を眺めている。ふと思い出したようにキャリーバッグから降りて双眼鏡を取り出した。
「これこれっ、これで見られるーっ」
そんなに目は悪くないのだが、遠くの人の表情まで確認はできないのでこれで覗くしかない。
「…!見えた!いた!」
一人でわあわあ騒ぐ姿は他人から見れば滑稽な姿だが、生憎近くには誰もいないので思う存分騒ぐことができる。
双眼鏡で覗いた先には勇ましく槍を振るう姿が特徴的な真田幸村。その5歩後ろには間隔をそれ以上開けるでもなく近づくでもない距離を保って華麗に足軽をあしらっている猿飛佐助。ずっと遠くで陣を構えてどうどうと座っているのは武田信玄だ。
今まで画面の向こうにいたはずの人物がこんなに身近に感じるなんてなんて幸運なんだと初めて薫にありがたみを感じた。
「すごい、ほんと…本当に凄い。もう死んでもいい…!」
双眼鏡を覗きながら余韻に浸っていると
「死んでもいいの?」
首に伝わる冷たさと、何処かで聞いたことのある子●voiceが耳を突いた。