第14章 流しに来ました
彼の手元で白いビニール袋がしゃかしゃかと音を立てる、明るい声と裏腹に靴の先がしっかりとドアの隙間に挟まっているのが見えて、私は冷や汗をかいた
「い、今は解熱してて、大丈夫だから・・っ」
「それはよかったです、とりあえず開けてくれます?」
「な、なん、で・・?」
「なんでって、疎いなぁ」
寒いからですよ、態とらしく鼻を啜った彼が両手に息を吹きかけて
優しい笑顔がこんなに怖いことあるかな、あまりの圧に私は自分の体温がぽかぽかと上がっていくのを感じる
「で、でも何もおもてなしできないし、」
「看病しに来たんですよ、お気遣い無用です」
「で、でもね」
「・・・帰れって、そう言いたいんですか」
既読も付かないし電話にも出ない、何かあったのかと心配で顔見に来たんですよ、不愉快そうに顰められた眉に胸がまた甘い音を立て始める
だめなの、今貴方と会ったらまた私、きっと流されてしまうから、
「また後日・・じゃだめ、かな・・?」
「埒明かないんで、引きちぎりますね」
「ちょっ、わか、分かったから・・!」
「分かってくれて嬉しいです」
ああどうしよう、まだ貴方と向き合う自信なんて無いのに
ドアを開けたらきっと彼は無理やり私を抱き締める、耐えられるだろうか、まだ答えが出ないときちんと伝えられるだろうか、
一度閉めた扉、外からは何の物音も聞こえない
静かにチェーンを外し恐る恐るドアを開けると、ほっとしたように思い切り眉を下げた彼が大きく安堵の息を吐いた
「いきなり抱きついたり、しませんよ」
「・・っ、」
「体調大丈夫ですか」
そんな顔するなんてずるい、衝動を必死に抑えた彼の手が優しく私の額に触れて、無理やり抱き締められるよりもずっとずっと、心が甘い悲鳴を上げている
「会いたく、なかったのに・・っ」
「知ってます」
「私最低な、の・・自分の気持ちが・・っ」
「分かってます」
込み上げる涙を堪えるように唇を噛み締めると彼が呆れたように笑って、よしよしと私の頭を撫でる
「流されたくない貴女を、力押しで流しに来ました」
こんくらいが潔いでしょ、抗えるもんならどうぞ、悪戯っ子のように笑った彼が熱い頬に触れる
芯まで冷え切ったその指先があまりにも気持ちよくて、私は心の求めるままに目を閉じた