第3章 脹相〜雷〜
その日は、朝朝から絶え間なく雨が降り続き、空は一日中どんよりと曇っていた。
私はソファに座って、ぼんやりテレビを眺めていた。
隣では脹相が本を読んでいる。
こうして一緒に暮らすようになって、しばらく経ったが、まだ恋人ではない。
それでも、同じ家で過ごすことにはすっかり慣れていた。
「……雨、強くなってきたね」
「ああ」
脹相は本から目を離さずに答えた。
その直後。
――ゴロゴロゴロ……。
「……っ」
身体がびくっと跳ねた。
しまった。
反射的に肩をすくめた私を、脹相がちらりと見る。
「……雷か」
「う、うん」
「怖いのか?」
「……ちょっと」
本当は、ちょっとどころではない。
昔から雷が苦手だった。
音が大きいのも嫌だし、いつ落ちるか分からないあの感じも怖い。
でも、いい歳をして雷が怖いなんて言うのは少し恥ずかしくて、私は平気なふりをしていた。
「大丈夫だよ」
笑ってみせる。
「別に、これくらいなら――」
その瞬間。
窓の外が真っ白に光った。
次の瞬間、轟音が響く。
――ドォンッ!!
「っ……!」
私は思わず耳を塞いだ。
心臓が跳ねる。
「……」
脹相が本を閉じた。
「大丈夫ではないだろう」
「……」
何も言えない。
恥ずかしくて俯く。
「ごめん……」
「何故謝る」
「だって……うるさくして」
「お前は何もしていない」
脹相はそう言うと、私の隣へ移動してきた。
ソファが沈む。
距離が近くなった。
「……ここにいる」
「え?」
「雷が怖いなら、ここにいる」
あまりにも真っ直ぐ言われて、私は目を瞬いた。
「でも、脹相、本読んでたじゃん」
「もういい」
「……いいの?」
「ああ」
脹相は当たり前のように答えた。
そして、少し迷ったあと。
「……手、握るか?」
「え」
「嫌ならいい」
「……」
差し出された手を見る。
大きくて、温かそうな手。
私は少し迷ってから、その手に自分の指を重ねた。
ぎゅっ。
脹相の指が、ゆっくり私の手を包む。
「……」
温かい。
その温度に、少しだけ身体の力が抜けた。
「……ありがとう」
「ああ」
それ以上、脹相は何も言わなかった。