第3章 脹相〜雷〜
脹相はただ隣にいる。
雷が鳴るたび、握った手に少しだけ力を込めてくれる。
まるで「ここにいる」と伝えるように。
しばらくして。
また空が光った。
――ゴロゴロッ……。
「……っ」
私は脹相の腕に少しだけ寄った。
無意識だった。
「……」
脹相の身体が一瞬固まる。
「ご、ごめん」
慌てて離れようとすると、
「そのままでいい」
低い声がした。
「……え?」
「怖いのだろう」
「うん……」
「なら、離れる必要はない」
そう言って、脹相は私が離れようとした分だけ、少し身体を寄せてくれた。
肩が触れる。
腕が触れる。
それだけなのに、さっきまでとは比べ物にならないくらい安心した。
「……脹相」
「何だ」
「雷が鳴るたび、私のこと見てない?」
「見ている」
「やっぱり」
「お前が怖がっているからな」
「……そんなに心配?」
「ああ」
即答だった。
私は思わず顔を上げた。
脹相は真剣な顔をしている。
「……大げさだよ」
「大げさではない」
「雷だよ?」
「お前が怖がっているなら、それで十分だ」
「……」
胸が、少しだけ苦しくなる。
優しい。
脹相は、こういうところがずるい。
付き合っているわけでもないのに。
何でもないような顔で、こんなことを言う。
また雷が鳴った。
私は反射的に目を閉じる。
すると、頭に何かが触れた。
脹相の手だった。
大きな手が、そっと私の頭を撫でる。
「……怖いか」
「……うん」
「なら、目を閉じていろ」
「子どもみたい」
「子どもでも構わない」
「……ふふ」
「何だ」
「脹相って、優しいね」
「……そうか?」
「うん」
脹相は黙った。
そして、しばらくしてから小さく呟く。
「お前にだけかもしれない」
「……え?」
「何でもない」
「またそれ?」
思わず笑ってしまう。
雷はまだ鳴っている。
でも、さっきほど怖くなかった。
脹相が隣にいるから。
手を握ってくれているから。
そして、何度雷が鳴っても、離れようとしないから。