• テキストサイズ

呪術廻戦〜脹相〜

第22章 脹相〜うなじ〜


あの日。

 あなたが振り向いた拍子に、頬へ触れた唇。

 ほんの一瞬だった。

 事故だった。

 分かっている。

 だからこそ。

 今度は自分から何かをするつもりはない。

 ……ないはずなのに。

「脹相」

「ああ」

「髪、とめてくれる?」

「……俺が?」

「うん。後ろだから見えなくて」

「分かった」

 私は脹相に背を向ける。

 髪をまとめて、脹相へ渡す。

「お願い」

「ああ」

 脹相が髪を受け取る。

 指先が、髪を整える。

 そのとき。

 うなじがはっきり見えた。

「……」

 脹相の手が止まる。

「どうしたの?」

「いや」

 ゆっくり髪を結ぶ。

 それだけ。

 それだけなのに。

 胸の奥が落ち着かない。

 髪を結び終える。

「できた」

「ありがとう」

 私は振り返る。

「どう?」

「似合っている」

「ほんと?」

「ああ」

 あなたが笑う。

 脹相は視線を逸らした。

 ――危ない。

 そう思った。

 もう少し近かったら。

 もう少し長く見ていたら。

 触れたくなる。

 いや。

 キスしたくなる。

 そんな衝動が、一瞬だけ胸をよぎった。

「……」

 脹相は手を握り直す。

 何でもない顔をする。

 そして。

 あなたの髪を、そっと撫でる。

「……?」

「何でもない」

「また?」

「ああ」

 頭を一度だけ撫でる。

 それ以上はしない。

 触れるだけ。

 それで十分だ。

   
/ 126ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp