第20章 脹相〜頭を撫でる〜
それから数日。
「……」
私はテーブルで本を読んでいた。
脹相は向かい側に座っている。
ふと顔を上げると。
「……」
脹相がこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「いや」
「何?」
「……眠そうだなと思って」
「ちょっとだけ」
「そうか」
脹相が立ち上がる。
私のところまで来ると。
ぽん。
頭に手を置いた。
「……」
「え?」
「……」
そのまま撫でる。
「また?」
「ああ」
「最近、よく撫でるよね」
「そうか?」
「うん」
脹相は少し考える。
「……言われてみれば、そうだな」
「無意識なの?」
「たぶん」
そう言いながら。
また撫でる。
「……」
私は思わず笑う。
「脹相、私の頭撫でるの好き?」
「……」
脹相が止まる。
「どうだろうな」
「分からないんだ」
「ああ」
少し考えて。
「ただ、お前がこうしていると……」
「うん?」
「撫でたくなる」
「……」
胸が少しだけくすぐったくなる。
「どうして?」
「分からない」
脹相は正直だった。
「でも」
「うん」
「撫でていると、お前が安心した顔をする」
「……」
「それを見るのが好きなのかもしれない」
私は少し照れて俯く。
「……そっか」
「ああ」
脹相の手がまた髪を撫でる。
今度は少しだけ長く。
「……眠くなってきた」
「寝てもいい」
「でも本読んでたのに」
「続きは明日でいい」
「うーん……」
私は少し迷ったあと。
脹相の肩に頭を預けた。
「……じゃあ、もう少しだけ」
「ああ」
脹相は何も言わない。
ただ。
私の頭を撫で続ける。
指先が髪を梳く。
何度も。
優しく。
「……ねえ」
「ああ」
「脹相って、誰にでもこうするの?」
「しない」
即答だった。
「……そうなんだ」
「ああ」
その答えが妙に嬉しい。
「じゃあ、私だけ?」
「……今のところは」
「ふふ」
私は笑う。
脹相も小さく笑った。
「何だ」
「なんでもない」
「そうか」
しばらくして。
私は完全に目を閉じる。
「……」
脹相は眠ったことを確認してからも、しばらく手を止めなかった。