• テキストサイズ

呪術廻戦〜脹相〜

第19章 脹相〜チャック〜


「……」

 脹相の胸の内は、落ち着かなかった。

 朝も同じことをした。

 ただチャックを閉めただけ。

 それなのに。

 帰宅してからもう一度頼られると、また意識してしまう。

 あなたは何も気にしていないのだろう。

 自分を信頼しているから、何気なく頼んでいるだけ。

 それが分かっている。

 だからこそ。

 余計なことを考えるな。

 脹相は自分に言い聞かせる。

「……動いた」

「よかった」

 チャックが下がる。

「これで脱げる?」

「ああ」

「ありがとう」

 私は振り返る。

「助かった」

 脹相と目が合う。

「……」

 距離が近い。

 朝よりも。

 ほんの少しだけ。

「脹相?」

「ああ」

「どうしたの?」

「……何でもない」

「また?」

「ああ」

 私は小さく笑った。

「今日ずっとそれ言ってない?」

「そうかもしれない」

「ふふ」

 私はワンピースの裾を少し整える。

「じゃあ、着替えてくるね」

「ああ」

 一歩離れようとしたとき。

「……待て」

「ん?」

「チャックは、もう大丈夫だ」

「うん」

「……それだけだ」

「?」

 脹相はそれ以上何も言わない。

 私は首を傾げながら部屋へ向かう。

「じゃあ、また後でね」

「ああ」

 ドアが閉まる。

 リビングに一人残った脹相は、しばらくその場から動かなかった。

「……」

 自分の手を見る。

 さっきまで触れていたチャック。

 ただそれだけ。

 何でもないことだ。

 そう思おうとする。

 けれど。

「……」

 胸の奥が妙に落ち着かない。

 朝も頼られた。

 帰ってきても頼られた。

 それが嬉しいと思ってしまう。

 ――お前は、俺を信頼している。

 その事実が。

 脹相には何より嬉しかった。

「……困ったな」

 小さく呟く。

 付き合っていない。

 だから、今以上に近づくつもりはない。

 あなたが自分を頼ってくれることを、都合よく受け取るつもりもない。

 ただ。

「……もう少し、頼ってくれてもいい」

 誰もいない部屋で。

 小さく呟く。
/ 126ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp