第19章 脹相〜チャック〜
夕方。
脹相と出かけた一日が終わり、二人で家に帰ってきた。
「ただいま」
「ああ」
靴を脱いで、荷物を置く。
「疲れたね」
「そうだな」
私はリビングへ向かう途中で足を止めた。
「……あ」
「どうした」
「ちょっとお願い」
「何だ」
私はワンピースの背中へ手を回す。
今日一日着ていたワンピース。
帰ってきたから着替えようと思ったのだけれど。
「……チャック」
「?」
「下ろせない」
「……」
脹相が黙った。
「朝、閉めてもらったじゃん?」
「ああ」
「今度は下ろしてほしい」
「……俺が?」
「うん」
脹相はしばらく私を見る。
「……分かった」
返事はいつも通り。
けれど、やっぱり耳が少し赤い。
「じゃあ、お願い」
私は背を向ける。
「……」
脹相が近づいてくる気配。
朝と同じ。
けれど、帰宅して気が緩んでいるせいか、今の方が妙に意識してしまう。
「動かないでくれ」
「うん」
背中に脹相の指が触れる。
「……」
チャックをつまむ。
そして、ゆっくり下ろしていく。
「……」
静かだ。
朝よりもずっと静かに感じる。
私は何となく振り返りたくなった。
けれど、やめた。
振り返ったら、余計に気まずくなりそうだった。
「……あと少し」
「うん」
脹相は慎重にチャックを下ろす。
けれど。
「……」
途中で止まった。
「どうしたの?」
「引っかかった」
「え?」
「少し待て」
脹相がチャックを確認する。
「無理に引っ張ると壊れる」
「そっか」
「動くな」
「分かった」
脹相はさらに慎重にチャックを動かす。
その間。
お互い何も話さない。
妙に長く感じる。