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呪術廻戦〜脹相〜

第14章 脹相〜寝ぼけたことは利用しない〜


 脹相は何も言わない。

「私、変なこと言ってなかった?」

 あなたが不安そうに聞く。

「いや」

「本当に?」

「ああ」

 脹相は嘘をついた。

 正確には。

 大事なことを一つだけ、言わなかった。

「ならよかった……」

 あなたが安心したように息を吐く。

 脹相はそれを見て、少しだけ笑った。

「ただ」

「うん?」

「ソファで寝るのはやめろ」

「なんで?」

「風邪を引く」

「……分かった」

「次からは寝室で寝ろ」

「でも、昨日は寂しかったんだよ」

 あなたがぽつりと言う。

 脹相の胸が小さく跳ねる。

「……そうか」

「脹相がいないと、なんか変な感じだった」

「……」

 昨夜と同じ言葉。

 脹相は目を伏せた。

「なら」

「うん?」

「次に泊まりで家を空けるときは、連絡する」

「何してるって?」

「ああ」

「どうして?」

「……お前が寂しがるから」

「ふふ」

 あなたが笑う。

「じゃあ、お願い」

「ああ」

 少し沈黙が落ちる。

 あなたはソファから立ち上がろうとする。

 そのとき。

「……」

 脹相の手が、あなたの袖を軽く掴んだ。

「脹相?」

「……何でもない」

 すぐに手を離す。

 けれど、その表情には少しだけ名残惜しさがあった。

「朝ご飯、食べるか」

「うん」

 二人でキッチンへ向かう。

 いつもと変わらない朝。

 けれど脹相の胸の中には、昨夜の記憶が残っている。

 あなたが自分に抱きついたこと。

 寂しかったと言ったこと。

 そして――。

 眠ったまま、誰にも聞かせるつもりがなかったような声で告げた言葉。

 それだけは。

「……」

 脹相は心の中にしまっておく。

 いつか。

 あなたが起きているときに。

 自分の目を見て。

 自分の意思で、その言葉を言ってくれる日が来るまで。

 だから今は。

「脹相?」

「ああ」

「どうしたの?」

「何でもない」

 そう答えて。

 脹相はいつも通り、あなたの隣にいた。
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