第9章 脹相〜お留守番はできないから迎えに行く〜
「じゃあね!」
「うん、またね!」
友達と別れたあなたが、一人で歩き出す。
その背後から。
「……おい」
「え?」
振り返る。
「脹相?」
「ああ」
「なんでここにいるの?」
「迎えに来た」
「え?」
私は目を丸くした。
「迎えに?」
「ああ」
「私、帰れるよ?」
「知っている」
「じゃあ、なんで?」
脹相は少し黙った。
「……遅かったから」
「そんなに?」
「暗くなっている」
「ごめん」
「謝る必要はない」
そう言いながらも、脹相の表情は少し硬かった。
「心配した?」
「……ああ」
小さな声。
私は少し驚いた。
「そっか」
「連絡がなかったから」
「あ……ごめん。友達と話してて、スマホ見てなかった」
「そうか」
「次からちゃんと連絡するね」
「ああ」
それだけ言って、脹相は私の荷物を持った。
「自分で持てるよ」
「いい、俺が持つ」
私は仕方なくバッグを渡した。
「ありがとう」
「ああ」
二人で歩き始める。
しばらく沈黙が続いた。
私は隣を歩く脹相を見る。
「……ねえ」
「何だ」
「もしかして、ずっと待ってた?」
「……ああ」
「何時間?」
「覚えていない」
「そんなに?」
脹相は答えなかった。
私は少し笑う。
「心配してくれたんだ」
「ああ」
「ありがとう」
「……礼を言われることではない」
「でも嬉しい」
その言葉に、脹相の歩みがほんの少しだけ遅くなる。
「嬉しい?」
「うん」
「……そうか」
それだけ。
けれど、脹相の耳が少し赤くなっている。帰り道。
人通りが少なくなる。
脹相は私の隣を歩きながら、ふと手を伸ばした。