第9章 脹相〜お留守番はできないから迎えに行く〜
その日は、私は友達と出かけていた。
「じゃあ、行ってくるね」
「ああ」
玄関で靴を履きながら声をかけると、脹相はリビングから顔を出した。
「帰りは遅くなるか?」
「うーん、分かんない。夕方には帰ると思う」
「そうか」
「脹相は家で待ってて」
「ああ」
それだけの会話だった。
私は笑って家を出た。
脹相も特に気にしている様子はなかった。
少なくとも、表面上は。
昼を過ぎても。
夕方になっても。
脹相は家で静かに過ごしていた。
時計を見る。
「……」
まだ帰ってこない。
最初は何とも思わなかった。
友達と出かけると言っていたのだから、帰りが遅くなることくらいある。
そう分かっている。
それでも。
時計の針が進むたびに、少しずつ落ち着かなくなっていった。
スマートフォンを見る。
連絡はない。
「……」
脹相はソファに座り直した。
そして数分後。
またスマートフォンを見る。
何もない。
「……遅いな」
呟いた声が、誰もいない部屋に響いた。
心配だった。
だが、何があったのか分からない。
事故に遭ったのではないか。
体調を崩したのではないか。
帰り道で何かあったのではないか。
考えれば考えるほど、不安になる。
そして。
その不安の奥に、もう一つ別の感情があることにも気づいていた。
――早く帰ってきてほしい。
ただ、それだけ。
脹相は立ち上がった。
「……迎えに行くか」
自分に言い聞かせるように呟く。
出かける準備をして、家を出た。