第1章 脹相〜出会い〜
翌日。
私は廊下で再び彼と出会った。
「あ、昨日の……」
「……ああ」
脹相はそれだけ答えた。
相変わらず無愛想だ。
でも、昨日より少しだけ視線が柔らかい気がした。
「脹相さん、でしたよね?」
「……覚えていたのか」
「そりゃ覚えてますよ」
私が笑うと、彼は黙った。
そして、わずかに顔を逸らした。
「?」
「……何でもない」
また、それだ。
何でもないと言いながら、耳がほんの少し赤い。
私は気づかなかった。
脹相自身も、気づかれないように必死だった。
本当は、名前を呼ばれただけで嬉しかった。
昨日より近い距離で顔を見られるだけで、胸が熱くなった。
けれど、そんなことを口にするなんてできない。
ましてや、初めて会った相手に好意を抱いているなど。
「……お前は」
「はい?」
「怪我はないのか」
「え?」
「昨日、疲れていたように見えた」
「ああ……ちょっと任務で。でも大丈夫です」
そう答えると、脹相はじっと私を見た。
「本当に?」
「本当です」
「……そうか」
それだけ言って、彼は歩き出した。
私はその背中を見つめる。
不思議な人だ。
怖そうなのに、意外と優しい。
そしてその頃、脹相の頭の中では別のことが渦巻いていた。
――大丈夫だと言っていた。
だが、本当に大丈夫なのか。
顔色は悪くなかったか。
歩き方は変ではなかったか。
傷は隠していなかったか。
考え始めると止まらない。
気づけば脹相は、私の姿を目で探すようになっていた。
廊下にいる。
誰かと話している。
笑っている。
それだけで、なぜか安心する。
逆に姿が見えないと、妙に落ち着かない。
「……俺は何をしているんだ」
小さく呟く。
自分でも分かっていた。
これは、ただの心配ではない。
けれど認めたくなかった。
認めてしまえば、自分が弱くなるような気がしたから。