第33章 迷子の子ども
休日の昼下がり。
珍しく二人とも予定がなかったので、私と脹相は街へ出かけていた。
「これ、脹相に似合いそう」
服屋の前で立ち止まり、あなたが手に取ったのは黒いシャツだった。
「俺に?」
「うん。こういうの着たら格好いいと思う」
「……そうか」
脹相はシャツを受け取り、じっと眺める。
「買う」
「え、即決?」
「お前が選んだんだろう」
「まあ……そうだけど」
そう言われると、少し照れてしまう。
脹相はそんなあなたの顔を見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。
彼は前からそうだった。
あなたが何気なく言ったことを、驚くほど大切にする。
「じゃあ、これ買ったら次は――」
あなたが振り返った、そのときだった。
「……ママ?」
小さな声がした。
足元を見ると、五歳くらいの男の子が立っていた。
目には涙が溜まっている。
あなたと目が合うと、男の子はぱっと表情を明るくした。
「ママ!」
「えっ?」
ぎゅっ、と。
小さな手があなたの服を掴んだ。
「ママ、どこ行ってたの……!」
「え、あの……」
完全に困ってしまう。
脹相も固まっていた。
男の子はあなたの腰に抱きついたまま、泣きそうな顔で見上げている。
「怖かった……」
「そっか。大丈夫だよ」
あなたはしゃがみ込み、男の子の頭を優しく撫でた。
「お母さんとはぐれちゃったの?」
「うん……」
「じゃあ、一緒に探そうか」
「……うん」
男の子は安心したように頷いた。
その横で、脹相は無言だった。