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呪術廻戦〜脹相〜

第31章 エスカレーターの下り



「……脹相」

「なんだ」

「私も、脹相と目が合うの好きかも」

「……」

 脹相が固まった。

「……脹相?」

「いや……」

 彼は小さく息を吐く。

「それは、嬉しい」

 その声が、少しだけ震えていた。

「そんなに?」

「……ああ」

 握っていた手が、少し強くなる。

「お前は知らないだろうが」

「うん?」

「こうしてお前に手を握られて、振り返って目が合って……」

 脹相はそこで言葉を止める。

 そして、困ったように笑った。

「……俺は今、かなりドキドキしている」

「えっ」

「だから、あまり可愛い顔で見るな」

「か、可愛いって……」

 今度は私が真っ赤になる。

「脹相だって……」

「なんだ」

「そんな愛おしそうな顔で見るの、ずるい」

「……そうか?」

「そうだよ」

 脹相は少し考えるように黙った。

 そして。

「……すまない」

「謝らなくていいけど」

「では、どうすればいい」

「……そのままでいて」

「……」

 脹相の目が少しだけ見開かれる。

「そのまま?」

「うん」

 私は握った手に少しだけ力を込める。

「脹相が私を見てくれてるの、嬉しいから」

「……ああ」

 脹相の表情が、また柔らかくなる。

 まるで大切なものを見るような目。

「分かった」

 そう言って、彼は私の手を握り直した。

 エスカレーターはゆっくりと下っていく。

 周りにはたくさん人がいる。

 それなのに。

 今は、脹相の目しか見えなかった。

「……もうすぐ着くね」

「ああ」

「手、離す?」

「……」

 脹相が少しだけ黙る。

「できれば、もう少し」

「……うん」

 私は笑って、手を握り返した。

「じゃあ、もう少しだけ」

「ああ」

 そして、最後まで。

 脹相は何度も私を振り返った。

 目が合うたびに、嬉しそうに目を細める。

 そのたびに私は恥ずかしくなって。

 でも、少しだけ嬉しくなって。

 結局、エスカレーターを降りるまで、一度も手を離せなかった。
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