第31章 エスカレーターの下り
「……脹相?」
「いや」
「なに?」
「……嬉しい」
「何が?」
脹相は一瞬だけ目を伏せた。
けれど、すぐに私を見る。
「お前と目が合うのが」
「……」
「すごく嬉しい」
その言い方が、あまりにも素直だった。
しかも。
とても愛おしそうに私を見るものだから。
胸の奥が、きゅっと締まる。
「……そんなに?」
「ああ」
即答。
「お前が俺を見ていると……」
そこで一度言葉を止める。
「……なんだか、安心する」
「安心?」
「ああ」
脹相は少しだけ笑った。
「俺のことをちゃんと見てくれているんだと思うと、嬉しい」
「……」
私は急に恥ずかしくなって、少しだけ視線を逸らした。
すると。
「……おい」
「なに?」
「今度はお前が逸らすのか」
「だって……」
「嫌だったか?」
「違う」
「なら、こっちを見ろ」
優しく言われて、私は恐る恐る顔を上げる。
また目が合う。
近い。
近いのに、不思議と嫌じゃない。
むしろ、このままでいたい。