第31章 エスカレーターの下り
休日の帰り道。
買い物を終えた私たちは、駅の中を歩いていた。
「今日は結構歩いたね」
「ああ」
「疲れた?」
「俺は平気だ」
「さすが」
そんな会話をしながら、下りのエスカレーターの前までやってくる。
「先に乗る」
脹相がそう言って、一段目へ乗った。
「うん」
私はそのすぐ後ろに続く。
いつものことだった。
下りのエスカレーターでは、脹相が前で、私が一段後ろ。
脹相は手すりに片手を置き、まっすぐ前を向いている。
私はそんな彼の背中を眺めながら、ゆっくりとエスカレーターに運ばれていく。
「……」
ふと、思った。
なんだか寂しい。
さっきまで隣を歩いていたのに。
今は脹相の背中しか見えない。
別に離れているわけじゃない。
一段しか違わない。
手を伸ばせば届く距離にいる。
それなのに、前を向いている脹相の横顔すら見えないのが、妙に物足りなかった。