第30章 脹相〜お風呂の停電〜
――パチン。
突然、浴室の電気が消えた。
「えっ……」
さっきまで明るかった浴室が、一瞬で真っ暗になる。
私はちょうどお風呂から上がったところだった。
身体を拭いて、髪を乾かそうとしていたところだったから、今の格好はバスタオルを一枚巻いているだけ。
「……停電?」
雨の音だけが、やけに大きく聞こえる。
脱衣所に置いたスマホを取りに行こうとしたけれど、暗くて足元がよく見えない。
「……脹相」
少しだけ声を上げる。
「いる」
すぐに返事が返ってきた。
「大丈夫か?」
「うん。でも真っ暗で……」
「今、行く」
足音が近づいてくる。
やがて浴室のドアが開き、暗闇の中に脹相の姿が見えた。
「怪我は?」
「してないよ」
「本当に?」
「うん」
「なら、そこから動くな」
「でも、タオルしか持ってなくて……」
「……」
脹相が黙った。
「脹相?」
「……分かった。とりあえず、そのままでいい」
「いや、よくないよ!」
自分で言って、余計に恥ずかしくなる。
「だって……脹相に見られたら」
「……」
「……あ」
暗闇の中でも、彼が固まったのが分かった。
「ご、ごめん。変なこと言った」
「いや……」
脹相の声が少し低くなる。
「俺も、悪い」
「なんで脹相が謝るの?」
「……分からないならいい」
「?」
よく分からない。
でも、とにかく恥ずかしい。
付き合っているわけでもない男の人の前で、タオル一枚。
しかもその相手が、毎日一緒に暮らしている脹相だ。
今までだって何度も顔を合わせてきたのに、急に意識してしまう。