第29章 脹相〜温泉旅行〜
旅行当日。
電車に揺られながら、私は窓の外を眺めていた。
「楽しみだね」
「ああ」
「温泉入って、ご飯食べて、ゆっくりして」
「そうだな」
「脹相は温泉好き?」
「入ったことはある」
「じゃあ好き?」
「……嫌いではない」
「ふふ」
私は笑う。
「脹相らしい」
「そうか?」
「うん」
しばらくして。
目的地に到着する。
駅から旅館まで歩く道は、都会とは違って静かだった。
「空気が違うね」
「ああ」
旅館に到着すると、受付を済ませる。
そして。
「こちらのお部屋になります」
案内された部屋を見て。
「……」
私は固まった。
脹相も同じだった。
「……一部屋?」
「二名様ですので」
仲居さんは何の疑問も持たずに去っていく。
「……」
「……」
畳の上に敷かれた布団は、二組。
ただし。
思っていたよりずっと近かった。
「……脹相」
「ああ」
「布団、近くない?」
「……そうだな」
脹相が少し黙る。
「まあ、旅館だし」
「そうだな」
そう答えながらも、脹相は明らかに意識していた。
普段の家なら。
ソファと床。
それぞれ好きな場所で過ごせる。
けれど今夜は。
眠る場所さえ、すぐ隣だ。