Spoofing HAL -Akito ver.0.8
第2章 Execute Script: "Akito"
「ねーちゃんに拾われたんすか?
どこで? ……へぇ、バー。
どうやって声かけられたんですか? どんなふうに?」
遥斗は身を乗り出し、
品定めをするような無遠慮な視線で男を質問攻めにした。
それもすべて、アキトの「生意気な弟」の仕様だ。
男が言葉に詰まると、遥斗はわざとらしく声を立てて笑う。
「あはは、やっぱねーちゃん頭おかしいわ。
普通、そんな怪しい奴拾ってこないでしょ」
煙草のフィルターの端をガリ、と深く噛み潰す。
その感覚を楽しみながら、遥斗は吐き捨てるように言葉を継いだ。
「でも、放っておけないんだよなー
……ねーちゃんだから」
そこまでは、完璧に制御された『アキト』のスクリプトだった。
けれど、最後の一節。
「……本当、なんで放っておけないんだ?」
低く、地を這うような独白。
それはスクリプトの皮を内側から突き破って溢れ出した、
遥斗自身の、呪いのようなバグだった。
遥斗はふらりと男に寄り、その手首を掴んだ。
男の体温。
触れた瞬間に、プログラムの最深部で警告音が鳴り響く。
これが彼女に触れた。
その不快なログを、今すぐこの男の脳に
直接、
最悪な形で書き込んでやりたくなった。
「そうだ、お兄さん。いいこと教えてあげる」
遥斗は、まるで壊れやすい精密機器の扱い方を教えるような、
親切で冷ややかな手つきで男の指を誘導する。
「ここ。この指をこうして、この辺
そう。ここ、グッと強く。
そうすると、奥まで、蕩けるから。ねーちゃん、簡単に飛ばせるよ。
……あんたがさっきまでやってたのは、ただの無駄な処理。リソースの無駄」
口にした瞬間、心臓が凍りついた。
自分を切り刻むような、最悪の自己嫌悪。
けれど、アキトというスクリプトからの暴走は止まらない。
これはアキトというスクリプトでも遥斗というOSでもない、
その2つが混ざってとてつもない『狂気を持った弟』。
目の前の男の顔から血の気が引くのを見て、
遥斗はかつてないほどの征服感を味わっていた。