Spoofing HAL -Akito ver.0.8
第2章 Execute Script: "Akito"
マンションの非常階段。
夜風に当たりながら、
遥斗は吐き出しようのない泥のような感情を飲み込んだ。
ハルを膝の上に座らせて抱き寄せる。
そして親指の爪で、他の指の爪先をパチン、パチンと弾く。
静かな夜に、乾いた音が虚しく響いた。
何度も、落ち着けと自分に言い聞かせるように。
不意に指先に力を込めすぎて、奥歯を強く噛み締める。
ミシリ、と顎が鳴る音が脳内に直接響いた。
ハルが不安そうに鼻を鳴らし、遥斗の強張った顎をぺろりと舐めた。
その湿った温もりに、張り詰めていた筋肉が無理やり弛緩させられる。
自分を心配そうに見つめる濁りのない瞳を見て、遥斗は短く吐息を漏らした。
「ごめん。大丈夫だよ、ハル」
今度は爪を弾くのではなく、
その言葉を何度も言い聞かせるようにゆっくりとハルの背を撫でる。
「……聞いてたけど。実際見ると、笑えないな」
独り言は、
夜の闇に吸い込まれて消えた。