Spoofing HAL -Akito ver.0.8
第1章 Spoofing HAL -Akito ver.0.8
「アキト、何入ってきてんの?
お姉ちゃん、今日来るなって言ったよね?」
その声が耳に届いた瞬間、
遥斗の脳内では『遥斗』という人格がパージされ、
代わりに梓が望んだ『アキト』という名のスクリプトが強制実行された。
家に帰って一息つこうとしただけなのに、
ありもしない姉弟関係を背負わされる。
遥斗。
今、その名前を呼ぶ彼女は存在しない。
はる、
春だからその真逆の秋なのだろうか。
咄嗟に出たとはいえ、作家にあるまじき単純な命名。
「安直すぎるだろ」と、どこかで冷静にツッコミを入れる自分もいたが、
その微かな理性さえ、
目の前の光景から逃避するための演算に過ぎなかった。
彼女の瞳には、愛着など微塵もない。
あるのは、乱入してきた自分というイレギュラーな入力値を
どう解析し、この最悪なシステム障害をどう転用してやろうかという、
ゾッとするほど明晰な好奇心だけだ。