第3章 雨の診察室
ー最後に、先生は、ボクを診察室に呼びました。
ボクはとても怖くて震えていたと思います。
母はどうなってしまったのだろう。
この人は母をどうするのだろう。
父がこのまま弱って死んでしまったらどうしよう。
でも、先生は、おっしゃいました。
「君のお母さんは頑張りやさんで
いろんなことを一生懸命やりすぎて疲れてしまったようだ。
人は疲れてしまうと、ちゃんとものを考えられなくなったり、
怒りっぽくなったりするんだ。
君も眠たいときとかは怒りっぽくならないかい?
ね、だから、これから、君のお母さんは、
この病院で少しお休みをしたらいいと思うんだ。
その間、君はお家で頑張れるかな?」
ー先生は、にっこりほほえみました。
ボクは頷いたと思います。
「えらいね。
そうだな・・・最初の何週間かは、
お母さんがしっかりお休みするために
君や君のお父さんと話をしないほうがいいと思うんだ。
心配するからね。
でも、その後、元気になったら君とも会えるし、
お家で過ごす時間も作れると思う。
もっと元気になれば、お家に帰れる。」
ーこの時、他にも先生は何かおっしゃったと思いますがあまり良く覚えていません。
でも、ボクは、ボクが一番恐れていたことを聞いたんです。
その時のことだけは鮮明に覚えています。
「ママは、ボクのことがきらいになったの?」
ーボクが一番怖かったのは、母が自分のことを嫌いになって、
もう二度と家に帰ってこないのではないか、ということでした。
母の病気のことを、ボクはまだ良く理解できませんでした。
ー先生は、ボクの頭に手を置きました。温かい、大きな手でした。
そして、ゆっくり、ことさらゆっくり、こう言いました。
「君のママは、君のことが大好きだよ。
そして、大丈夫。絶対に良くなるから。」
ーボクの中の怖さが、薄くなりました。
先生は『大丈夫』とおっしゃいました。
ずっと、どうして良いかわからなかったことを、
どうしようもなかったことを。
先生は『大丈夫』とおっしゃったのです。