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鬼道有人の初恋

第4章 第四話




 この部屋で彼女から言葉を発したのは初めての事だった。どきどきと速まり始めた鼓動を押さえながら、鬼道はゆっくりと彼女の方へと視線を向ける。

「質問を、許して頂けますか……?」

 伏し目がちに鬼道へ視線を寄せ、彼女が今にも消え入りそうな声で鬼道に問いかけた。その手は緊張の為だろう、制服のスカートをギュッと握り締めている。

「ああ。当然だ」

 その手をちらと見つつも、落ち着きを払って鬼道は深く頷いた。小動物のような彼女の怯えは愛らしさもあるが、それ以上に心の距離に寂しさを感じた。

 それでも彼女が自ら口を開いて、それどころか鬼道に答えを求めて疑問を投げかける……。これまでを考えればこれは画期的な一歩であった。

 期待と興奮が己の強欲な感情を埋めてしまう。彼女の言葉を求めつつ、努めて穏やかに鬼道は微笑みかける。

「……そんなに固くならなくていい。……それで?」

 サッカーのことか、それともピッチに立つ選手のうちの誰かのことか。彼女の返答によっては平静を保てないかもしれない。彼女の興味を推察しながら思う。それでもあるべき鬼道有人の姿を保って言葉を待った。

 は質問を許した鬼道の答えにほっと安堵した様子を見せ、そして言葉を続ける。

「はい。えっと……、鬼道さんのその手帳は、サッカーの記録をつけていらっしゃるのですか?」
「え……」

 想像もしなかった質問に呼吸が止まった。彼女の視線は、ピッチではなく俺の手元に、俺自身に向けられている。その事実が心臓を暴れさせた。

「ずっと熱心に、確認をされているから……」

 声は遠慮がちで強張りつつも、彼女の眼差しは一筋の光のように鬼道を指す。鬼道は勝手に開いてしまった口を誤魔化したくて目を逸らし、手帳の方へと視線を落とした。どく、どくと脈打つ心臓の音が全身を支配していた。

 ――――彼女の興味の先は……。
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