第4章 第四話
しかしは鬼道の厚意を素直に受け取ろうとしなかった。小さな抵抗をし、鬼道が着せたマントを脱ごうともぞもぞと動く。首の結び目に彼女が手を伸ばした。咄嗟に鬼道は、結び目を解こうとしたその手を捕まえる。
「」
ずっと触れたいと思っていた華奢な手は、柔らかくしっとりとしていた。そして何より爪先まで氷のようにひやりとしている。
「こんなに冷えているんだ……。少しは俺の言うことを聞け」
その細い指を労るように撫でながら鬼道はの耳元に囁く。もはや、鬼道に引く気はなかった。触れてしまったその手を壊れ物のように撫でつける。
こんなにも滑らかで手に馴染む。鬼道は己の手で包むことで彼女の手を温めようとした。
「でも、私、汗をかいて……」
この期に及んでまだそんなことを言うのか。
「そんなことは関係ない」
弱々しくなったの抵抗を跳ね除け、鬼道は一蹴する。耳まで赤く染まった横顔を見つめ、鬼道は彼女の手に指を絡める。
ここまでしても彼女は逃げない、指先は冷たくとも指に震えはない。彼女の反応から拒絶の意思が無いことを鬼道は目敏く悟る。ゴーグルの奥から好機を見据え、考えうる最善手を取った。
「だが、次からはちゃんと着替えてこい。……選手は体が資本だ。そうだろう?」
多少遅れようが、来てくれさえすればそれでいい。お前に風邪などひかせるわけにはいかない。それに……、この姿をいたずらに晒す訳にもだ。
「」
マントに包まれた彼女の姿を熱に浮かされた瞳で見つめる。彼の色を身に纏い、そして恥じらいながらも彼女の瞳は鬼道だけに注がれていた。
「分かったな?」
彼女の瞳の中には鬼道だけが映りこむ。そうしながら彼女は鬼道の言葉に確かに頷いた。重ねあった手が同じ温度を持つ。彼女の全てを自分の色に染めた錯覚を得る。
堪らなく甘美な光景、これは鬼道の自制を振り切るには十分だった。彼女の瞳に赤は艶麗に映り込む。このときだけの虚構だと分かっていながら、を手中に収めた感覚に満足げに彼は笑んだ。
だがまだ足りない。もっとより深くまで……。欲深い感情が腹の奥で蠢いていた。
もはや、取り返しのつかないところまで。鬼道有人は恋心に身をやつしている。