第4章 第四話
だが欲求が絶えず語り掛けても、鬼道は冷静に計算の上での行動を取る。この、ただ共に過ごすだけの時間の重みを理解していた。
――――すべては、彼女の心に近づくためだ。
強い欲望を鬼道は腹の中に押し込める。単純接触を繰り返すだけでも少なからず効果は得られるはずだ……。彼女が身を縮めて過ごさなければならないこの学園内で、せめて俺とこの場所が本当の彼女でいられる場所になる。
そのためにまずは、俺が隣にいることが当たり前だとが感じるようにしなければならない。余計な緊張や萎縮を生むことのないよう努める。最後に二言三言、言葉を交わせればそれでいい。
そう自分に言い聞かせ、ピッチで繰り広げられている練習試合を眺める彼女の息遣いや体の揺れに神経を研ぎ澄ませていた。
俺の隣で彼女の目は今、何を映しているのか。あの闇色の瞳が何を捉えているのか、すぐにも確認できるのに知れないことがもどかしい。
……彼女がサッカーに興味を持ってくれていることは嬉しい。だが、少々複雑でもあった。彼女の目線の先にあるのは、鬼道ではなく彼のチームメイトたちのプレーだからだ。
目の前のゲームに参加することで得られた可能性を思い浮かべてしまう。彼女の視線の先に俺のプレーを披露できたなら、司令塔として完璧な戦略を展開できたのなら……。
彼女が俺自身に興味を持つかもしれない。彼女の視線は俺だけに向けられて……。手帳のページを捲るふりをしながら鬼道は自身の考えを内心で嗤う。
何とも子供じみた求愛だな、彼女との時間の方が惜しくてここで試合を見ることにしたんだろう俺は。わざわざ、フォーメーションの確認なんていう急を要しない理由を作ってまで試合を抜けた。
だが、それでも。俺の中心であるからこそサッカーに興味を持ってほしい。前提に先ず俺があって欲しいのだ。
考えずにはいられない。もし仮に俺ではない、他の選手に彼女の好奇心が向けられでもしたら……。思わず手に力がこもってノートの端が形を歪める。そんな些細な可能性が胸を圧し潰しそうになる。
「……あの……、鬼道、さん」
遠慮がちな声が静寂を破った。耳を澄ましていた鬼道の肩が小さく跳ねる。