第4章 第四話
慎ましくも穏やかな日々が彼の中には積み重ねられていた。
得られる時間はほんのわずかなものだった。分単位にスケジュールの詰まる鬼道にとってとの時間の確保は容易ではない。
しかしながら、彼女との時間を得ないことの方が、鬼道にとって徐々に耐え難いものとなり始めていた。
数日前……、彼女の頬に触れたあの日。彼女は明らかに鬼道に対し心を開く兆しを見せた。
彼女の涙と微笑みが、どれだけ鬼道に深く熱を刻み込んだことか。きっと彼女には分からないだろう、鬼道の心に抗えない気持ちを植え付けるには十分だった。
もっとも、一目見たときから鬼道の心はの虜だった。それは否定できない。とはいえ、その恋情は日毎に熱を上げていくばかりだ。
明確に鬼道の生活には彼女の存在が息づき始めていた。気がつけば、図書室で陸上に関する本を手に取ることがあった。彼女が苦手だと何気なく口にした科目をより力を入れて学び、淀みなく解説できるだけの用意をした。
求められた訳でもない。ただ、機会があればすぐにも知識を差し出せるように。彼女の求めるものは、自分が手ずから与えたいという願望が鬼道にはある。
多くの制約があろうと、目に見えないほど小さな距離でも詰めたい。その気持ちから鬼道は再び彼女をこの部屋に呼んだ。
彼女になるべく圧を掛けないよう鬼道は細心の注意を払う。とうに済ませたフォーメーションの確認に耽るふりをしながら、それでも隣に座っている少女に否応なく意識は吸い寄せられる。
とはいえ、あくまでも手元に開いた手帳に視線を落とし、あからさまな視線を彼女に向けないように心がけた。
本当は一分一秒でも多く、彼女の姿をこの目に焼き付けたい。この時間は代えがたく貴重だ。