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愛しのサプフィール

第21章 乳母


次から次に溢れる涙をぐっと堪えようとしたものの、止まらない。
「でも僕……ソーニャと、ずっと一緒にいたくて……」
鼻を啜りながらそう言うと、乳母は眉を下げながらまたハンカチをトレーネスの目元に押し当てる。
「そんなことでしたら……結婚する必要などありませんよ。最後の最後まで、私はこの家にお仕えするつもりです」
乳母としての役目を終えたからといって必ずしも屋敷から暇をもらうわけではない。
少なくとも、自分の意思で辞めることはないと乳母は穏やかな口調でトレーネスに言い聞かせる。
「それに……結婚したからといって、ずっと一緒に居られるとは限りませんからね」
静かにそう付け加えた乳母の目が、一瞬トレーネスから外される。
「そ、そうなの?」
「ええ。色んな事情で離れ離れになります……家族になろうとそうでなかろうと」
そんな言葉に、トレーネスは眉をひそめる。
「もしかして……僕とソーニャも?」
「はい」
「い、嫌だ、そんなの……。ずっと僕と暮らしてよ」
乳母の袖を掴んだトレーネスが震える声でそう訴えるも、乳母はただ首を横に振るだけだった。
「誰しもいつかはお別れする日が来るのです。なので、私は人と接する時間を大切に過ごすようにしています」
憂うような目でトレーネスの顔を見てから、乳母はトレーネスの手を引いて歩き出す。
「……そろそろお部屋へ戻りましょう。早くしないと、夕食が遅くなってしまいますからね」
トレーネスは乳母から渡されたハンカチを握りしめたまま、静かに頷いた。
涙で焼けた頬が、痛くてどうしようもなかった。









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