• 小
  • 中
  • 大
  • テキストサイズ

愛しのサプフィール

第23章 散歩


春の中頃。トレーネスは馬に乗って、コズロフ邸の近くを散策していた。
常歩でポコポコと歩いていく馬の背に揺られながら林道を通る。木々の隙間から差す西日が、断続的に顔を照らした。
「……はぁ」
少し離れた自宅を見て、溜め息が漏れた。
10歳を過ぎた頃から跡取りとしての教育が本格的になってきた。身支度に勉強、礼儀作法。褒められることも多いけれど、至らなさも感じる。
求められるものに応えられなかった瞬間の数々を思い出すたび、ちゃんとした領主になれるのかどうか不安になった。
乳母は相変わらず自分を励ましてくれるものの、傍に居てくれる時間はかなり減っている。
父も優しいけれど、甘いわけではない。次期当主として厳しく律する言葉が増えた。
毎日毎日、同じようで少しずつ違う。日が経つごとに、年を重ねるごとに、足りないものを実感していく。
成長しているはずなのに出来ないことが増えていく。
目の前で馬がブルル、と鼻を鳴らした。
「お腹すいた? もう帰りたい?」
餌を催促するときによくこんな鳴き方をする。トレーネスは馬のたてがみをクシャリと撫でながら、呟くように声を掛ける。
「……もうちょっとしたら、帰ろっか」
少しずつ日差しで黄色くなっていく景色を眺めながら前進を続ける。
馬のゆったりした蹄の音に耳を傾けたまま、トレーネスは日暮れまでそうしていた。









/ 88ページ  
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:なごんだエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白い
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp