第19章 授業
「では、その酒は何から作られているでしょう? この村の納めている酒はワインです」
「ワイン……」
トレーネスには馴染みのない嗜好品。夕食時、給仕が父親のグラスに注いでいる時くらいしか目にする機会がない。
けれど、そのボトルのラベルに原材料らしき絵が描いてあったことを思い出した。
「ブドウとかの……果物?」
「ええ。この村では傾斜地の多くを果樹園として利用しています……次は、麦の納付量が多い村の隣の村を見てみましょう。この村は先ほど比較した多い方の村よりさらに平野です」
言われて、トレーネスが地図と帳簿を確認する。
「……あれっ。平野なのに麦が少ないです」
「さて、なぜなのか考えてみましょう。ヒントは麦の生育条件にあります」
「麦の……?」
「先ほどの天候の問題と少し理由が似ています」
先ほどの傾斜地での問題は雨で土壌が流されたり水捌けが良すぎる点について話したはずだ、とトレーネスは思い返す。
今回はその逆だろう。
「じゃあ、水が溜まりやすいのがダメ……ってことですか?」
「そうです。この村は平坦なうえ土地が低く、水が溜まりやすいのです。麦は湿害に弱いので、必ずしも平らな土地ほど向いているわけではありません」
「へぇ……」
地図を見ながら頷いて返す。
「では、今度はこの村の人々が何で税を納めているのか帳簿の内容から当ててみてください」
「わかりました。えっと……」
また帳簿に目を落とす。そうして授業は規定の時間いっぱいまで行われた。
昼食後、トレーネスは庭に出てコーカシアン・シェパードのシャリクと遊んでいた。
まだ寒さの残る曇り空の下、誰もいない馬車の通り道でトレーネスが木の棒を投げてはシャリクが取って戻ってくる。
5回ほど往復した後、シャリクは飽きたようにその場に伏せた。咥えていた枝も口からポトリと落とす。
「ほらシャリク、もう1回っ」
手を叩いて催促するもシャリクは動かない。耳と尻尾だけが申し訳程度に反応していた。
「もういいの?」
トレーネスはシャリクに近寄り、しゃがみ込んで頭を撫でる。