第19章 授業
冬の終わり頃。ある日の午前中、トレーネスは屋敷内の学習室で授業を受けていた。
領地の地図と紙の束を見比べながら、トレーネスが家庭教師の話を聞いている。
「ではトレーネス様、ここにある2つの村の麦の納付量をそれぞれ見比べてみましょう」
家庭教師が地図で区切られた地域のうちの2つを指定した。
書記に用意させた去年の帳簿の写しをめくり、トレーネスが2つの村のページを見つける。
「こっちの村の方が明らかに多いです」
「納付量は収穫量に比例します。人口は大きくは変わりませんが、なぜ差が出たでしょう?」
「うーん。収穫量の多い村の方が土地が少ないのに……。広い方は耕作とは別のことに土地を使っていたりしますか?」
首を傾げるトレーネスに家庭教師がまた地図を指差す。
「地図をよく観察してみましょう。この2つの村、どんなところが違うでしょうか」
「えっと……一方は平野で、もう一方は山の麓にあります」
「ええ。山の麓の辺りはどんな地形だと思いますか?」
トレーネスは山麓に近付いたことなど一度もなかった。しかし山々の裾野を思い返し、何となくで答える。
「坂……ばかりだったりですか?」
「そうですね。土地によって多少の違いはあれど、基本は山に向かうほど傾斜が増えます。傾斜のある土地だと、耕作においてどのような影響があるでしょうか」
「坂だと……斜めだから畑にしづらい?」
「いいですね。他はどうですか?」
頷きながら家庭教師が促す。
「うーんと……」
「たとえば天候とか」
「雨……が降ったら、土が流れたり……? あとは傾斜だから……作業がしにくい、とか……水が畑に溜まりにくいとか」
首を捻りながら一つ一つ上げていく。言うたびに家庭教師は頷いて返す。
「よろしいです。これだと、傾斜のある村は平野の村よりも納められる麦が少なくなってしまいますね。この村は主に何を税として納めているか分かりますか?」
「え……っと……」
トレーネスが帳簿にまた目を向ける。麦の納付量は劣るものの、酒と現金での納付が目立っている。
「……お酒と、お金が多いです」