第17章 近隣の街
「えっ、ソーニャ……」
また本を取りに行った店主の背後で、トレーネスが乳母に目を向ける。
「せっかくですし、色んな本を見てみましょう。多いに越したことはありません」
「……うん」
ほどなく店主がいくつもの本を持ってきて、2人の前に置いた。
「まだ沢山ありますので、もし他にも気になりましたらお声がけください」
そう言ってカウンターから少し離れ、本の整理を始めた。
「どうぞ」
乳母に手渡され、トレーネスが本を開く。先ほどの本に比べて小さくて軽いから持ちやすい。
動物や怪物が出てくる寓話集や冒険譚。いずれも子供向けの内容だった。
「ね、ねぇソーニャ……どれにしたらいい?」
「どれが気に入りましたか?」
「ぜ、全部……。選べないんだ」
恥ずかしげにそう呟くトレーネスに乳母が頷く。
「では」
試し読みした本をまたカウンターに置き、乳母が店主を呼ぶ。
「お会計ですか?」
「ええ。今のと同じような本で、おすすめの本がまだありましたらそれもまとめてお願いします」
「かしこまりました。ご用意いたします」
店主と話をつけた乳母のスカートを少し引っ張って、トレーネスは焦る声を抑えつつ訊く。
「い、いいの? こんなに買っちゃって……」
「旦那様からの許可は得ております。それに金額も、与えられた予算の上限には遠く及びません」
「そうなんだ……」
父がお許しなら、とトレーネスは安堵した様子で襟巻きを触る。
店内の暖かさのせいか、それとも緊張したせいか。少し汗ばむ。
「では、こちらは伯爵家のご勘定につけておきます」
「ええ。お願いします」
他の店員たちが何冊もの本をいくつかの包みに分け、紙に包んで麻紐で結ぶ。それを従僕が受け取り、先に店を出ていった。
「私達も出ましょう」
「う、うん。……ソーニャ、ありがとう」
「とんでもございません。玩具店にも寄るよう仰せつかっておりますので、向かいましょうか」
扉を開け、乳母がまたトレーネスを通す。
「え……まだお買い物するの?」
「旦那様のご意向です」
「傾いちゃわない? 家計……」
店ごと買い占めたって傾く気配すらないような財力の家に生まれた自覚がないらしい。質素倹約な父を見て育ったせいだろうか。
心配そうな顔のトレーネスを見ながら、乳母はクスリと笑った。