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愛しのサプフィール

第17章 近隣の街


店頭に吊り下げられた木製の看板には、本と文具の絵と店名が描かれている。
「本屋さん……」
トレーネスは曇ったガラス窓の向こうに並ぶ本棚を背伸びしながら覗き込む。
「どうぞ、トレーネス様」
乳母が店の扉を開け、トレーネスに入るよう促した。開かれた扉の隙間から、紙や革の匂いがふわっと鼻を掠める。
入口に敷かれた厚手の敷物を踏み越え、トレーネスは店内へと入った。
入ってすぐ、中央の卓上が目につく。売れ筋の本がいくつか並べられている。見た限り、難しい内容ではなさそうな安価な小冊子のようだ。
肝心の本棚は店の奥にある。天井近い高さの本棚が壁一面にぎっしりと並んでいて、数えきれないほどの本がびっしりと詰められていた。
カウンターの向こうにいた男性が立派な外套を着た少年と上品な装いの付き人に気付き、読んでいた新聞を伏せて声を掛ける。
「ようこそおいでくださいました。コズロフ伯爵様のご子息でいらっしゃいますね。本日は何をお求めでしょうか?」
話し掛けられ、少し怖気づいたトレーネスは思わず乳母のスカートを掴んだ。
「え、えっと……歴史書と地理の本を……」
「かしこまりました。少々お待ちを」
店主は背を向け、本棚から歴史や地理に関する本をいくつか選び取り始めた。
「娯楽になりますか?」
「どうだろ……でも、もう8歳だし」
乳母に聞かれ、トレーネスは少し俯いた。
「お待たせいたしました。こちらはいかがでしょう」
数冊の真新しい分厚い本を抱えて店主が戻ってきた。自国についての本と外国についての本がそれぞれあった。
「な、内容を確認してもいいですか?」
「かまいません。ごゆっくりどうぞ」
カウンターが高いため、乳母が本を持って屈みトレーネスに見せる。
「…………」
家庭教師に教わって既に知っている知識もあれば、まだ知らないところもある。簡単に流し読みながら、自分にとって読みやすい内容であることを確認した。
しかし、一冬こればかり読んで過ごしたいかと言われればそうは思わない。
「トレーネス様、こちらでよろしいでしょうか?」
「う、うん……」
ぎこちなく頷くのを見て、乳母は本を閉じてそっとカウンターに置いた。
「こちら全部購入します。あと……8歳頃の子に人気な本もいくつか見せてください」
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