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愛しのサプフィール

第17章 近隣の街


冬の初め頃。少し曇り空の午後、トレーネスは自室で乳母に着替えを手伝ってもらっていた。
普段の室内着の上に膝下丈の厚手の濃紺の外套を着込み、革のブーツを履く。
毛皮の帽子に革手袋。そして最後に、去年仕立てた大きな襟巻きがトレーネスの首元に二重にして巻かれた。
「去年よりゆとりが少なくなりましたね」
少し嬉しそうに微笑みながら乳母が言う。
「ほんと?」
「ええ。あっという間にぴったりサイズになるでしょう」
毎日見ているはずなのに、知らない間に大きくなっている。今着ている服も数カ月後には入らなくなるだろう。
「さ、終わりです。行きましょうか」
「うん。ありがとうソーニャ」
部屋を出て、階段を降りて玄関先まで向かう。外にはあらかじめ馬車が用意されていた。
従僕や御者と合流し、トレーネスは乳母と共に馬車に乗り込んだ。
門へ向かって走り出した馬車の窓からトレーネスが屋敷を振り返る。視線は執務室がある方へ向けられていた。
「……」
少し寂しげな顔をしてトレーネスが前に向き直る。
向かいに座る乳母と目が合い、少し気恥ずかしそうに笑みを浮かべながらまた窓の外に目をやった。
遠くに見える山脈はすっかり雪を被っている。
森林では葉を落とした木々の間に常緑樹の深い緑が残り、全体に色味が沈んでいた。
とうの昔に収穫を終えた枯れ草色の麦畑には、刈り取られた後の短い茎の束だけが地面から無数に生えているのが見える。
これから少しずつ雪の降る日が増えていって、外へ出られる機会も少なくなっていく。
今日の外出も、本格的な冬の到来に備えてトレーネスの娯楽になる物を買うためのものだった。
灰色の空と雲を見つめていると、少しずつ建物や人が景色の中に増えてきた。
やがて道は石畳に変わり、忙しそうに行き交う人々が目に入る。何人かが走っていく伯爵家の馬車に目を向けるのを、トレーネスも窓からそっと見下ろす。
ゴトゴトと揺れる座席を掴みながら街路の景色を眺めて過ごしていると、ほどなくして馬車が停車した。
御者台の後ろに控えていた従僕が降り、馬車の扉を開ける。
従僕に見守られつつ馬車を降りたトレーネスは、乳母と共に店先に立った。
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