第16章 丘
1週間後。サプフィールがソーニャと共に庭のゼニアオイの雌しべをつまみ食いしながら散歩をしていると、庭園の一角で庭師とスヴェトザールが何やら話しているのを見つけた。
「もっと広くできないか」
「しかし……」
「あとこの3倍くらいは欲しい」
困った顔の庭師に、スヴェトザールが足元の花壇を指差しながら頼み込んでいる。
見ると、馬房ほどの広さの花壇にはシロツメクサが植えられていた。
「あれっ」
「庭園にシロツメクサ……?」
先週のことを思い出しハッとするサプフィールの横で、ソーニャが訝しむ。
「す、スヴェトザール様」
何をしようとしているのか気が付いたサプフィールがスヴェトザールの元へ駆け寄って声をかける。
「サプフィール。どうかしましたか?」
「どうもこうも……いいんですか、そんなことして」
サプフィールが植えられたシロツメクサを指差す。
「家主ですので」
「でも、シロツメクサって繁殖力がすごいので……あっという間に広がって他の花壇に入り込んだり、他の植物の生育を邪魔したりするんですよ。私のために庭の景観を犠牲にするなんて……」
説明しようとするサプフィールの横で庭師が浅く何度も頷く。雇い主に対して強く出られないためかかなり控えめに共感している。
「そ、それに管理する庭師の負担も大きくなるのではないかと」
「ではシロツメクサを他の植物から多少離したところに移動させ、庭師にはシロツメクサに対する手当を追加しましょう」
それを聞いて庭師が複雑そうな顔をした。管理の手間と賃金の増額に心がせめぎ合っているらしい。
結局スヴェトザールの要望通りにシロツメクサの花壇は拡張されることになり、庭師は引き攣った笑顔で仕事へ戻っていった。
「あなたにしては強引でしたね」
「どうしても植えたかったんです。あの日の貴方がとても楽しそうにしていたので。……あの丘にいつでも連れていけたら、それが一番よかったのですが」
「まったく、もう……」
サプフィールがしゃがんでシロツメクサを摘もうとする。
「サプフィール様、私が致します」
ドレスが汚れるからと止め、ソーニャが代わりに1輪摘んで渡した。
「ありがとう」