第1章 【黒洲】本物の私
「黒洲!」
館内に響き渡ったのは、愛する人の声。
あすか様は現世で暮らしている人間です。しかし、私がまだ公民館にいると連絡したところ、仕事終わりにわざわざ駆けつけてくださったようです。
「あすか様。いらしてくださり、ありがとうございます。」
私は疲れを隠して、あすか様に微笑みかけました。
すると、あすか様は疾風のごとくこちらへ走ってきて、勢いよく私の胸に飛び込んできました。そして、私の頭をわしゃわしゃと撫でられました。
「あすか様……?」
私は困惑のあまり、されるがままになっておりました。
あすか様は泣きそうな声でそっとおっしゃいました。
「一人で……頑張らせて……ごめんね。」
あなたが謝る必要はございません。私一人でも大丈夫です。
そう言わなければいけなかったのですが、言葉が嗚咽になって上手く出せませんでした。
あすか様の肩に顔をうずめた私は、大粒の涙が溢れて止まりませんでした。黒猫六段とは程遠い、弱々しい子猫のような姿でした。
あすか様は、今度はゆっくりと優しく、私の頭を撫でられました。
「あとは私が頑張るから、黒洲は休んでいいよ。」
私は首を横に振り、言葉を絞り出しました。
「一緒に……片付けましょう。」
あすか様は穏やかな表情で頷きました。