第4章 因縁の残火
「ちょいと時間を食いすぎたな…京都は道がややこしくて敵わんわ」
男は不気味に笑いながら歩いていた。
肩には、布で包んだ長物。
扱いが雑なのが余計に不快だ。
「さて…赤空の最後の一振り。どんな殺人刀や…」
鳥居をくぐった、その先。
「そうはさせねぇ」
声が落ちた瞬間、男の足が止まった。
斗亜が、参道の真ん中に立っていた。
息は乱れていない。
だが目は冷えている。
「…神社の参拝客ちゃうな。あんた誰や?」
男が値踏みするように笑う。
「斗亜!」
折れた逆刃刀を携え、剣心が駆けつける。
息の切れ方が、いつもより少し重い。
斗亜は視線を横に流し、低く言う。
「兄貴は下がってろ。刀は折れてる…手ぇ出すな」
剣心は何も言わず、鳥居のそばで構えも取らずに立つ。
だが、その目は斗亜の背中を一寸も離さない。
斗亜は男を見据え、ゆっくり言った。
「俺たちを知らねぇとはな…」
そして剣心は、十字傷を隠していた絆創膏を剥がす。
ぺり、と乾いた音が、やけに大きく聞こえた。
斗亜も着物をはだけ、腹の傷を晒す。
その傷は、ただの古傷ではない。
志々雄に付けられた“生き残った”証だ。
「志々雄の知り合いだ」
斗亜の声が、刃のように研がれる。
「その子を離せ」
男は、にやりと笑った。
「なんや、人斬り兄弟か。赤空の最後の一振り、取りに来たんやろ?」
男は鳥居の下で、わざとらしく肩を揺らして笑った。
その笑いは軽いのに、目だけが獣みたいに冷えている。
「違う。伊織を返せ。そして、その刀はお前には渡さねぇ」
斗亜の声が低く落ちる。
怒鳴らない。
だが、言葉の端が刃みたいに尖っていた。
息がひとつ、夜気に白く滲む。
「あれは赤空最後の…唯一、血に染まっていない刀だ」
斗亜は男の腕、伊織を抱えた位置を一瞬だけ見て、すぐ視線を戻した。